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Odd-e Japan(CEO)江端 一将 チームが魔法のように変わる
アジャイル・スクラムに
魅せられた男の半生

ソフトウェア製品開発のコーチ集団「Odd-e」の日本法人として立ち上がった「Odd-e Japan」。

CEOの江端 一将は15歳で起業、大学卒業後は事業会社で3,000人のプロジェクトを率いてきた経験の持ち主です。

システム開発の経験がありながら、開発の“サポート”を選んだ半生を江端が振り返ります。

「今日から大人として扱う」
父から言われた衝撃の一言

Odd-e Japan(CEO)の江端 一将

私は、スクラムの国際的な認定団体「Scrum Alliance®」が認める日本人唯一の認定トレーナーとして、大手インターネットサービス企業や医療メーカーなど、幅広い業種の製品開発をサポートしてきました。

そんな私の原点は、15歳のころの経験にあります。

私は高校の入学式で、父からこんな言葉をかけられました。

「今から君を、ひとりの大人として扱っていいか?」と。

満面の笑みを浮かべる父の顔を見た私は、一人前と認められた気がして、うれしかったんです。

ところが1ヶ月後、思わず耳を疑うようなことを言われました。

「大人なんだよな?学費や家賃は払わないの?」

中学校を卒業したばかりで、稼ぎ口は当然ありません。

最初は「ちょっとだけ投資してもらえませんか?」と言ってみたのですが、聞き入れてもらえず…。

仕方なく家を出ることにしたら、自分の他にふたり、父親から「大人宣告」をされた人がいて。

彼らは父の同僚の息子で、父親同士「子どもを“大人”として扱おう」と示し合わせていたみたいです。

これは不幸中の幸いだと思い、彼らと共に、公園で生活をしながら事業を立ち上げ、お金を稼いでいくことにしました。

3人でさまざまな事業アイデアを考えたのですが、最終的にはコンピューター関係で事業を展開することに決めました。

単純に「女の子にモテそうだ」と思ったからです(笑)。

まずは開業資金を融資してもらうために、あらゆる銀行に足を運んだのですが、真剣には聞き入れてもらえませんでした。

しかし、とある銀行の人事部長が私たちのことを面白いと思ってくれたようで、融資の仕組みや決算書の読み方など、経済のことをいろいろと教えてくれました。

すると3人のなかのひとりがめきめきと力をつけていって。

証券外務員など金融系の資格を次々に取得したんです。

その姿を見て信頼してくれたのか、人事部長が融資の推薦書を書いてくれて、無事に信用金庫から融資をしてもらうことができました。

登記したりコンピューターを借りたりして、すぐに事業をスタートする準備を進めていきました。

家を出てから、大体2〜3ヶ月くらいのことですね。

大学卒業までの間で約500社にシステムが導入される

高校時代の江端

その次に行なったのが、事業アイデアの選定です。

“コンピューターを使って何をするのか”を話し合いました。

そこで私たちが目をつけたのが、地元・愛知県に多くあった自動車メーカーやその孫請け会社。

今でこそ会計ソフトウェアがありますが、当時、自動車メーカーの孫請け会社は“紙”で請求書のやり取りなどをしていて、とても非効率だったんです。

そこで、請求書のやり取りを効率化するシステムを開発しようと。

とはいえ、3人ともプログラミングの知識はまったくありません。

本を読みながら、当時生活していた公園の砂場にコードを書くところからはじめました。

当然ですが、雨が降ると全部消えてしまうんです。

見かねた友人がノートをくれたのでそれに記入していたのですが、公園に保管していたので、やはり雨に濡れてしまうという(笑)。

夜は公園の街灯の下で、昼は授業中にこっそりコードを書き続け、1ヶ月ほどでシステムを開発。

近所のバネ工場に、3万5000円で納品することができました。

地元はすごく田舎だったので、1社に導入が決まると、広く商品を導入いただけるようになりました。

その資金を元手に、次は時間管理のシステム開発に挑戦。

約200社に導入していただきました。

ようやく学費と生活費を賄えるようになり、家に帰れるようになったんです(笑)。

3人で立ち上げた会社は大学卒業まで続け、事業は月額35万円のシステムを500社に導入してもらえるほどに成長。

トヨタのグループ会社に事業を売却することができました。

卒業のタイミングで3人は別の道を歩むことになり、私はスカウトをいただいた鉄鋼会社で働くことに。

この会社での経験が、私に「アジャイル」「スクラム」の可能性を教えてくれることになります。

アジャイル、スクラムってこんなにすごいの?
プロジェクトで見えた可能性

スクラムについて情報収集をしていたころの江端(右上)

入社後、私はすぐに本部長に任命され、3,000人以上が関わる大きなプロジェクトの責任者を任されました。

周りからは「絶対にうまくいかないよ」と言われていたのですが、やるからには成功させたいなと。

そこで海外に目を向けて情報を集めることにしたんです。

そうしたら、アメリカに面白い考えの持ち主がいることがわかって。

コンタクトをとってみたら、アジャイル開発やスクラムを提唱したケン・シュエイバー(Ken Schwaber)氏だったんです。

ケンさんがシアトルで授業を開講するというので、現地で話を聞いてみたら、「検証と適応」というコンセプトが、すごく理にかなっているな、と。

業務をチームで行なうときのルールがすべて「顧客の抱える課題やニーズ」に応えるためであり、それに応え続けるために必要な「業務の透明性」にまで、フォーカスを当てていたんですよね。

そこで、自分が責任者を務めるプロジェクトに導入してみました。

日本にアジャイル開発やスクラムという開発手法がまったく知られていない2002年ごろのことです。

そのとき、ケンさんから「まずはあなたの考え方を嫌いな人、生理的に嫌いだと思われる人たちでチームをつくれ」と言われて。

実際にチームをつくってプロジェクトをスタートさせたのですが、まぁ、私のことを嫌いな人しかいないので、うまくいきません。

当然、失敗も起きます。

お客様から発注いただいたものを間違えて納品してしまうという大きなミスを犯してしまい、お叱りを受けました。

そのときケンさんに「チームメンバーにちゃんとやってほしい、と言っていいですか?」と聞いてみたら、「君の仕事は怒ることではなく、お客さんのところに謝りに行くことだ」って言うんです。

それでお客様のところに謝りに行き、職場に帰ってきたら、メンバーに謝られて。

その出来事がひとつの契機となり、メンバーから「アジャイル開発やスクラムにちゃんと取り組もう」という声が聞こえるようになりました。

こうして少しずつメンバーの意識が変わりはじめていたころ。

本来やるべきプロジェクトとは違うプロジェクトをアジャイル開発で進めていき、お客様に提案してみたんです。

するとお客様からすごく高い評価をいただけて。

それをきっかけに、メンバーがアジャイル開発やスクラムの良さを実感してくれたんです。

そこから一気に、組織内でアジャイル開発やスクラムの導入が進みました。

その光景を見て、メンバーもみんな感情的に「やりたくない」って言っていたわけではなかったんだな、と。

きっとケンさんには、こうなることが見えていたんだと思います。

結果的にプロジェクトは成功。

組織にもだいぶアジャイル開発やスクラムが導入されていき、2年半ほど経ったタイミングで退職しました。

その後、金融系の情報配信ベンダーで開発本部のマネージャーとして働いていたときに、ケンさんから久しぶりに「シンガポールに行く機会があるから会わないか?」という連絡があったんです。

人が変わる瞬間に立ち会えることが最大の楽しさ

世界各国のOdd-e メンバーと(後列左がバス・ヴォッデ氏)

シンガポールに行ってみると、「Odd-e」を立ち上げたバス・ヴォッデ(Bas Vodde)氏を紹介されました。

Odd-eは、アジャイル開発やスクラムを使って、製品開発の技術支援や、開発手法の導入や改善などを行なっている集団。

会話をするなかで、アジア各国で「Odd-e」を立ち上げる話が出てきました。

個人的には当時、「Odd-e Japan」を立ち上げる考えは頭のなかにまったくなかったのですが、話を聞いていくうちに面白そうだな、と。

鉄鋼会社で働いた経験からもアジャイル開発やスクラムが事業だけでなく、人の成長にも役立っていると感じていたので、これは立ち上げる意義が社会的にもある。

そう思い「Odd-e Japan」を立ち上げ、代表として会社の舵取りをしていくことにしました。

自分でもシステムを開発した経験がありながら、企業の製品開発の導入や改善、技術支援を手がけようと思ったのは、ケンさんの影響が強いです。

私のなかにも、鉄鋼会社のチームを魔法のように変えた姿が強く印象に残っていました。

最初は無理だと思っていたけれど、最終的にはチームのメンバーの仕事に対する取り組み方が変わった。

その経験から、人が変わる、本当の能力を発揮する瞬間に立ち会いたい想いが強くなっていきました。

いいプロダクトをつくるよりも、輝いた目をした人を増やしていきたい。

そのために、そうしたモノづくりに携わる人たちを支援する私たちの事業は、なくてはならないものだと思っています。

将来的には、事業を通して、いろいろな人の仕事への取り組み方を変えていきたい。

それにより、日本から世界を驚かせるプロダクトを生み出せるような土壌を作っていきたいと考えています。

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